宝塚音楽学校と宝塚歌劇団で学んだアレコレは、一生の宝物。
そんなアレコレをお話します。


「舞台で勝負」

初舞台を踏んで間もない頃、東京宝塚劇場に出演中のことでした。
花組同期全員、ある期の上級生に叱られました。
叱られた理由は、新公の自主稽古のテープ出しだったと思います。
先生抜きで自主稽古をする際、最下級生が音楽のテープを担当するのですが、その時、音を出すタイミングが悪かったらしく…。
私たちなりには精一杯やっていたつもりなのですが、まだまだだったのでしょう。

上級生方の楽屋に伺い、お部屋の入り口で謝っていたら、私たちより少し上の上級生Aさんがいらっしゃいました。そして、私たちと同じく正座をし、いっしょに謝って下さいました。
そして「……でも、彼女たちは精一杯頑張っています!」と、庇って下さいました。
叱られたことより、Aさんの優しさに対し、涙があふれてきました。

その場を離れ大部屋に戻り、泣いている私たちにAさんはおっしゃいました。

「みんな、舞台で勝負しなさい。」と。

たったひと言でしたが、痛いほど伝わりました。

負けるな…
舞台に立つためにココに入ったのだから、いい舞台を務めることだけを考えなさい…
負けるな…

この公演は、Aさんにとって退団公演でした。
退団する間際、大きなものを教え残して下さいました。


どんな社会も、しっくりいかないことは多々あります。
頑張っていても認めてもらえない。
どうしても理解してもらえない。
理不尽に思うこともある。
言いたいのに言うことさえできない状況もあり。

結果、拗ねてしまったり、愚痴だらけになったり、投げやりになってしまったり、やる気をなくしてしまったり、落ち込んでしまったり、誰かのせいにしちゃったり……
よくあること。私もそう。

でもそんな時、Aさんを思い出すのです。
周りを気にせず、自分の大切なこと、信じることを、きっちりしっかりやればいい…と。

それぞれに“私の舞台”があるでしょう。
皆さんの“私の舞台”で勝負して下さいな。



余談)
1年余り前、大浦みずきさんのお別れ会で、Aさんにお会いしました。
20年ぶり? いえ、もっとですね。
同期数名で「あの時はありがとうございました」「あの時のAさん、みんなずっと覚えています」などとAさんにお話したのですが……「えぇ? 私、そんなこと言ったっけ~」と微笑むAさんは、やはり素敵な女性でした。