宝塚に限らず、劇場の楽屋口や稽古場にあるのが着到板。
これは「不在」「在室」などを伝えるもので、会社にあるタイムカードのようなものです。

劇場により着到板の形は違い、歌舞伎の着到板は、芸名の上の穴に棒を差す……というものですが、宝塚の着到板は、芸名の書かれた板を引っくり返すだけ。

着到板板の裏表に芸名が書かれています。
一つは黒で、一つは赤で。
楽屋入りしたら黒にし、楽屋出の時は赤にします。

もし開演30分前に、着到板が赤い生徒がいたら、まだ楽屋入りしていないということ。
終演2時間も経っているのに、黒い生徒がいたら、楽屋のどこかにまだいるということ。

たまに、着到板を引っくり返すのを忘れる人が。
舞台事務所から「○○さん、(楽屋に)入ってますか~?」なんていうアナウンスが入って初めて、着到板を引っくり返さなかったことを思い出したり。

こうして着到板を見るだけで、生徒の「不在」「在室」がわかるのです。


稽古場の着到板は、着到板のそばに立っている最下級生が引っくり返していましたっけ。
また、すみれ寮にも着到板がありましたっけ。
それは芸名ではなく、なぜか本名が書かれていました。


ただ引っくり返すだけなのに、上級生になるにつれ、着到板に芸名がしっくり馴染んで年季が出てきます。
下級生の頃は、使い込んだ風の上級生の着到板が羨ましかったなぁ~。


やがて退団する時、退団者の着到板は、白い化粧前同様、白い飾りでデコられます。

そして千秋楽、この着到板は退団者本人が持って帰ります。
黒紋付に緑の袴で最後の楽屋出をする時に渡され、袴の帯にそっと差してパレード。
劇団がくれる形あるものって、これぐらいかもしれません。


ただ芸名が書いてあるだけの、ただ引っくり返すだけの、小さな板。
でもそこには、初舞台からこれまでの、汗も涙も楽しい思い出もすべてしみ込んでいるのです。