「その1」「その2」に続き、化粧前のお話。
今回は、退団者のみが使用する、真っ白な化粧前…です。

宝塚歌劇団を退団する際の公演――サヨナラ公演。
そのサヨナラ公演の千秋楽の10日ほど前から、それまで使っていた色とりどりの化粧前が、“退団=白”のイメージ通り、真っ白な化粧前に変わります。

白の化粧前を作るのは、普通の化粧前を作るのと同じく、その生徒のファンの方。
しかしファンの方は楽屋には入れません。
白い化粧前に取り替えるのは、同期生が中心。
同期生は同じ組に限らず他の組や、退団した同期までが参加することもあります。

同期生たち、普段なら、開演2時間前ぐらいに楽屋入りするのに、その日は3時間以上も前に楽屋入り。
同期生でこそこそと、座布団カバーやスリッパにいたるまで白い化粧前に交換。
そして、鏡をはじめ、イロイロなものが白い造花などで飾りつけられます。

これすべて、退団する生徒さん本人にはナイショ。
退団する生徒さん、いつもと同じく楽屋入りし、真っ白に変わっている自分の化粧前を見て……驚く!

でもね……薄々は感じるのですよ。「そろそろかな」と。
楽屋口辺りで「あっ……今、やってるね…」と。
だけど、感づいていないフリをするのも、これ、優しさかな。

退団者の白い化粧前


この白の化粧前がいつから始まったのかは定かではありませんが、ファンの方の「真っ白にして送り出してあげよう」という想いと、同期生や組子たちの「退団するその日までに、もっと何かしてあげたい」という想いが一つになったのでしょう。

化粧前が真っ白になると、退団するその日がすぐそこに来ていることを改めて感じます。
サヨナラまでのカウントダウン。
一瞬一瞬が大切。
退団者のその時の気持ちは……「淋しい…」。そのひと言に尽きます。

9月12日、雪組トップスター・水 夏希さんをはじめ、トップ娘役・愛原実花さんら10名が退団します。
もちろん10名の化粧前はもう真っ白。

あまりにも周りが温かくて優しいから余計、「淋しい…」だけど「幸せ…」を感じている……そんな時かな。